0人が本棚に入れています
本棚に追加
オリンピックの生放送を漠然と眺めながら、蜜柑を頬張る。
塾帰りの高校生が、星の見えない曇り空の中、雪に降られながら家路を目指す。
夜景の見えるレストランで、男女がふいに振り出した雪に、思わず見蕩れる。
そんな夜に、日本は壊滅した。
正確には、日本海側、関東から北海道にかけてが、凄まじい熱量を持って破壊された。
突如として彼らを襲ったのは、ミサイルだったのか、隕石だったのか、それはまだ明確にはなっていない。
幸いにも被害に遭わなかった人間は戦慄し、辛うじてその生命を閉じずに済んだ人間は命からがら西へと逃げていく、早朝。
2018年の、3月の事だった。
春からは大学生になるはずだったのに、新社会人になるはずだったのに、なんて嘆きすら出ない若者。
よく分からないまま、叔母に連れられて親戚の元に世話になるようになった小さな子供。
会社も無くなりどうしようもない大人。
ただただ呆然とするしかないほどに、完膚なきまでに破壊された故郷。
連日この事件一色の報道、生き延びた人間へのインタビュー。
分からないことだらけのこの事件だったが、幸運に恵まれた人間たちは総じてこう言った。
「この事件はまだ終わっていない」と。
彼らが何があったのか話すことはなかった。
けれど、その年の暮れ、西日本すらも壊滅し、日本という国は死んだ。
最初のコメントを投稿しよう!