噴水

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僕とハンスは学校近くの緑の風見鶏がある宿舎で寝泊まりしていた。古い木造の宿舎は貧しい生徒が入るものだったので、金を持つ同級生達からよくバカにされていたよね。 「ハンス、お前はこの学校に来る前のことを覚えているか?」 ある夏の日の朝、君は僕にこう聞いてきた。 「ああ。僕の家は貧しい農家だった。頑張って勉強してこの学校に入ることができたんだ。農家の両親も喜んでる」 「俺の家も貧乏だった。だが、俺はこの学校に来る前のことはっきり覚えていない。というか、日に日に忘れていっている気がする」 「毎日の勉強で過去のことを忘れてしまうんじゃないか?」 「だと良いのだが。毎日食堂で食べる茶色の固形物のせいなんじゃないかと思っている」 僕は、昼に食べているものに疑問を抱いたことがなかった。今なら分かる。君がこの学校のおかしさに早い段階で気づいていたことを。
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