噴水

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秋のことだった。ハンス、君は夜に学校に忍び込むという計画を立てた。最初、僕は反対したよ。あまりに危険じゃないかって。でも君はテストの回答を盗むと躍起になっていた。君のあまりに強い意思をもったまなざしに僕は負けた。 僕が廊下で見張っている時、職員室で君はとんでもないものを発見した。卒業生のその後を映した写真だ、飛行船は墜落し燃やされ、卒業生の全員が死んでいる。毎年だ。しっかりと焼死体に番号までふってある。 「見ろ、これが卒業生の進路だ。俺たちもいずれこうなる運命なんだ」 「そんなバカな!確かに卒業生達がその後どうなったのかは全く聞いたこともなかったし、興味もなかったけど…。まさか全員殺されるなんてことがあるのか?何のために?」 「この学校から2駅離れた先にあるのは海だ。夏季休暇の際、誰か海を越えた話を聞いたことがあるか?」 「ない。そう言えばないな。夏季休暇自体が7日間しかないし。この学校と僕らの宿舎があるR地区が島だってことは理解しているけど、確かにこの地区を出ようと考えたことがない」 「学校の教育でいつの間にかそう仕組まれているんだ。外の世界に関心を持たないようにな。おかしいと思ったぜ。校舎が綺麗なのに、どうして食事は貧相な怪しい固形物なのか。あれで俺達の記憶を曖昧にさせて思考をゆるくさせていたんだ。少しずつな」 「そんなまさか…」 「噴水の水がおかしな味がするわけだ。人工物なんだ、何もかもが!20世紀のアートがあるのに、なんで飛行機がどこにもない?飛んでるところを見たことすらないよな」 「飛行機?飛行船じゃなくて?」 「そうか。飛行機も皆知らないんだ。俺はたまたま昔ここに来る前に写真で見たことがあるが、この学校の奴らは皆知らない。だから、飛行船の卒業式が妙に物珍しく見える」 ハンスがそう言った時、侵入者を察知する警報が鳴った。僕らは慌てて職員室を逃げ出し、間一髪校舎から逃げ出した。
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