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3.
金曜日の夜、駅前の居酒屋で僕の歓迎会が開かれた。
事務所の大体のスタッフが参加してくれた。前いた事務所よりも事務所内の人間関係は良いらしい。前の事務所だって決して悪いわけでもなかったが、転勤した事務所の人間の方が面倒見が良いような気がする。もしかすると、県民性もあるのかもしれない。
僕は主役と言うことで、最初に挨拶をした。挨拶が終わった後、僕は参加してくれた人間一人一人にお酌をして、その後は前々からよく連絡を取り合っていた同年代の同僚と他愛もない会話をしながら時間を過ごした。
「でも、お前、急な転勤の話、よく断らなかったよな。あっちに彼女とかいなかったのかよ?」
一緒に話していた同僚が妙に鋭いことを言ってきた。僕は心の中でビクリとしたが、何でもないような表情で首を横に振った。
「彼女? いないよ、いないよ! ――あっ、何だよ、あそこ、何やってんだ?」
僕は会話をはぐらかそうと、妙に騒がしくしている向こうの席に目をやった。
向こうの席の人間たちは、何故か「自分の免許証の写真を見せ合う」ということをやって盛り上がっていた。飲み会とは、時々こういったどうでも良いようなことをして盛り上がるものだ。
僕と同僚は盛り上がっている席の方へ行ってみた。
「見てみて! 田中君の写真! すっごく目を見開いてるの」
年配の女性スタッフが僕と同僚に免許証を見せた。確かに女性スタッフの言う通り「田中君」の免許書の写真は何かびっくりするようなものを見せられた直後のように目を見開いている。僕と同僚は噴き出した。
「五月さん、かわいく写ってるね。でもこの時、すごく髪が短かったんだ」
「うん、髪切った直後だったから。確か、4年前くらいかな?」
僕は何気なく、その「五月さん」の免許証を見た。
僕は思わず心の中で「あっ!」と声を上げた。僕は五月さんの写真よりも、写真の上の五月さんの生年月日に目が行ってしまった。
昭和64年1月5日生。免許証にはそう記載されている。
(――五月さん、僕と生年月日が一緒だったんだ)
僕は思わず五月さんの方を見つめた。
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