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僕は昔から「自分と同じような」人間とか「自分に共感してくれる」人間を好きになる傾向があった。
前の彼女も時も同じだ。たまたま彼女がヘッドフォンで聞いていた曲が、僕も大好きな曲だった。日本ではあんまり人気のない海外アーティストの曲で、僕の周りで聴いている人もいなかったし、彼女も僕と同じようなことを言っていて意気投合した。
彼女だけではない、僕と仲の良い友達や同僚も僕に似ているところがあったり、僕と同じものが好きだったりする人間ばかりだった。
時々「自分と違う生き方をしているところに惚れた」とか「全然趣味は違うけど妙に気が合う」なんて言っているカップルや友達同士を見るけど、僕にはちょっと信じられない世界だな、と思っている。
自分の今までの傾向を考えてみると、生年月日が同じで「昭和64年」の話で盛り上がれる五月さんは、今まで出会った「僕と同じような」人間とか「自分に共感してくれる」人間の中でも、一番の存在のような気がした。
もしかすると、前の彼女にフラれたのも、会社から転勤を命じられたのも、僕が五月さんに会うためだったのかもしれない――。
いや、さすがにそれはないだろう……と、僕は首を横に振った。最近、良くネットで「運命の人」とかいう言葉を見かけるが、さすがに「運命の人」を信じるほど、僕はロマンチストでもないし空想家でもない。
でも、だからと言って、五月さんとの出会いに何も運命らしいものを感じないかというと、そう言うわけでもなかった。五月さんは見た目こそ大人しそうだが、話してみると結構ユーモアのある人だし、思っていたよりもずっと魅力的な女性だ。
そう、この五月さんとの出会いは、運命と言うよりは「チャンス」と言った方が良いのかもしれない。
振られてしまった僕に、自分と同じ「昭和64年1月5日生まれ」の女性との恋のチャンスが巡って来たのだ。
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