六花の追憶

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――ウサギは淋しいと死んでしまうんだってね。  そう柔らかな微笑みを浮かべた貴方は、雪を手にこちらに戻ってくると、その薄い掌をほんのりと薄紅に染めて、さらさらとした粉雪をぎゅっと握り固めた。掌の熱で溶けた雪が締まって、檸檬を縦半分に切ったような形が出来上がる。  丸盆のウサギと向かい合うように作った雪塊をそっと置いて、沓脱石に上った貴方が丸盆の隣に腰を下ろした。  盆の隅に置かれていた南天の実と深碧の細長い葉で器用に瞳と耳を付けていく。2羽の雪ウサギが見つめあう。 ――淋しいと可哀想だから番を作ってあげたかったんだよ。  満足気な笑みを浮かべた貴方が、ブーツを沓脱石に置いたまま火鉢の傍にくる。薄紅に染まった指先を(かざ)した。鼻先を紅く染めて笑う姿はまるで少年のようで、三十路をとうに過ぎているとは思えない。  普段は、背の中程まで伸びたクセの無い漆黒の髪を緩くひとつに束ね、濃紺の長着をきっちりと着つけてすっと伸びた背筋が凛とした和装美人――男に美人というのが正解なのかはわからないけれど――なのに。
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