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3年ほど前の春に貴方が越してきたとき、小さな村はその噂で持ちきりだった。
高校を卒業したばかりで小さな商店を営む実家の手伝いをさせられていた俺は、早くこの村から出ていきたいとばかり考えていたっけ。
そんなときだった。配達で訪れたこの家で貴方と出逢って、洗練された所作や優し気な笑みに魅せられたのは。毎日のように入り浸る俺を疎ましく避けることもなく受け入れてくれた貴方との距離が段々と近づいていくにつれ、憧れに似た想いは深く恋慕の色を濃くしていった。
玉砕覚悟で告げた想いを貴方は笑うことなく受け入れてくれて、新たに恋人という関係が加わったあの夏の日から、貴方はこの未来が見えていたのかな。
喘息が酷くなったから空気の良いところに療養に来たんだよと言っていたのに。
ここに来てから調子がいいんだと笑っていたのに。
恋人になって初めての冬、番の雪ウサギを作って笑っていた貴方は春が来るのを待たずに逝ってしまった。風邪をひいた貴方の看病をして泊まった翌朝、隣の布団で冷たくなっている貴方を見つけたときは信じられなくて。悪夢なら早く覚めて欲しいと願った。
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