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六花の追憶
その年初めての雪は庭を覆いつくすくらいに降り続いて、雪見障子を開けてみれば硝子越しの目の前には一面の銀世界が広がっている。やっと雪雲が晴れて顔を覗かせた満月の蒼白い光が降り注ぐ中を、ときおり吹く風に枝に積もった雪がひらひらと舞って、まるで花吹雪のように見えた。
子どものようにはしゃいだ貴方が、俺の制止も聞かずに薄着のまま玄関から持ってきたブーツを沓脱石に置いて足を入れる。開け放たれた障子の向こうから入り込んでくる冷気に、火鉢で紅く色づく炭がぱちりと爆ぜた。
五徳の上に置いた鉄瓶がしゅんしゅんと音を立てて白い湯気を立ち昇らせている。
かなり古い古民家の風情を楽しみたいとストーブも置かれていない部屋は、濡れ縁の木戸を閉めていないせいで肌寒かった。火鉢の仄かな暖かさしか暖をとる術がない部屋で障子を開けてしまえば、そこはもう外と変わりない温度になる。
厚手のセーターの上に羽織っている綿入れ袢纏の前合わせをぐっと引き寄せて胸元を覆ってみるけれど、肌寒さは消えなかった。
溜息が白く色づく。
寒さ弱い俺が身を縮こまらせているのとは対照的に、貴方は紐を結ばず羽織っただけの袢纏姿で楽しそうに雪を手にしている。
濡れ縁に置いた木製の丸盆の上にぽつんと佇む1羽の雪ウサギ。
昼間に貴方が雪の降る中作ったそれは、少しも溶けることはなく、南天の赤い小さな実がつぶらな瞳になってこちらを見上げていた。
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