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兵達が声を上げて混乱した人々を押しとどめようとしている。違う者は倒れた人々を危険のない脇へと移動させたりしている。
「近衛府、人を出すな! 事態把握をして人々を落ち着けろ! 第三師団は倒れた人を集めて、医療府呼んで!」
騒ぎに戻ってきたオスカルが的確に兵を誘導させていく。それに従い、近衛府の者が穏やかに人々に話しかけて誘導し、第三師団はテキパキと倒れた人々を搬送していく。
エリオット自身もその声に冷静さを取り戻し、倒れた男性を抱え上げようとした。
その時だった。
スッと影が差し、見上げたそこにウエーター姿をした男が立っていた。
エリオットは今まさに男性を抱き上げようと両手を差し入れた所だ。見上げた男の銀のトレイの下に、同じく銀に光るナイフを見た。
「!」
「死ね」
低く喧騒に消える声で呟いた男がトレイを捨ててナイフを振りかぶる。
エリオットは咄嗟に抱えた男に被さるように体を屈めた。不安定な膝立ち、両手は塞がり男との距離はほぼない。振り下ろされる前に逃げる事はできない事は確かだった。
目を瞑り、震えている。離れた戦場を思いだした。死を近く感じていた時代が、突然目の前にあるように思えた。
だが、痛みがこない。それに、体を覆うような温かさと重さがある。
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