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元より他人との距離が近い子だった。何の気なしに他人の懐に入る術も知っている。今はその力を遺憾なく発揮しているのだろう。
狙いは、前庭を騒がせた犯人が紛れ込んでいる可能性を危惧しての事。感覚の鋭いランバートは行動も早い。
あれの中から天性の暗殺者の才を見つけた剣の師には、感謝していいものなのかどうか。
「どうぞ」
「あぁ、有り難う」
そんな息子がシャンパンのグラスを手渡してくるのを、ジョシュアは笑顔で受け取った。
「仕事、頑張りなさい」
「有り難うございます、公爵閣下」
丁寧に頭を下げながら、去り際に手に何かを渡してくる。グラスを空け、それをこっそりと確認した。
『犯人の狙いが分からない。お気をつけを』
短くぶっきらぼうなその言葉に、ジョシュアは笑う。それをローブの中にしまい込んだ。
そうして馴染みの人々に軽く声をかけていく。
娘や息子の社交界の事、最近のもうけ話、他国との貿易の様子。案外拾えるものがある。これらを上手く使っていくことが家の繁栄になる。
その中でも少々気になる話がある。
東の森と国境を接するラン・カレイユ王国と、南東の国境を接するジェームダル王国の戦況だ。
あそこは昔から仲が悪い。今も戦をしているが、若干ラン・カレイユの方が分が悪い。ジェームダルは新王になってから数年、戦好きに拍車がかかっている。
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