ある赤砂嵐の日に

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「もし、私が貴方の肉体を気に入った場合ですが、恒常的に関係を有することを条件として、今後も『特価』での情報提供等、想定する方向での検討も……」 「いや、だからジジイ、さっきから何言ってんだよ……」  そこで店主が、本革張りのチェスターフィールドチェアから、スラリと立ち上がる。  俺は思わず、その場から半歩後ずさった。  子供用の棺桶ほどもありそうな大きさのテーブルを回って、店主が俺へと近づいてくる。  ジジイは、割に長身な部類だったが、俺よりはずっと身長も低い。  さらには、初老といっていい年頃だし、かなり細身の男だったから、別に腕力じゃ、何ひとつ怖いことはない。 「ふざけてんのか、冗談にしちゃ、ぜんっぜん面白くないぜ」   俺は腕組みをすると、すぐ目の前にまでやって来た店主を見下ろして睨む。  すると、店主は、ふうと、小馬鹿にしたというか、呆れ果てたというか。  そんな感じの溜息をひとつ洩らして応じた。 「いいえ、至極真面目な話をしております」 「だから、『身体捧げる』って、なんなんだよ」    そしてジジイは、身体の後ろで軽く両手を握り合わせ、スッと首筋を伸ばすと、 「すなわち、私が貴方の身体を、好きに弄ぶということですが、JJ」などと続けた。 「寝言か?」  それ以外に、俺ももはや返す言葉が浮かばない。       
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