ある赤砂嵐の日に

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 「泣く子も黙る」どころか、すれ違いざま、ガキに泣かれるわ、ションベン漏らされるわと、その手の逸話にゃ事欠かないこの俺に、よりにもよって、黙って「抱かれろ」とは。笑止千万ってやつだろうが。 「では、今週中の支払が可能と?」  店主がすかさず、俺を問い詰める。 「う…」 「今回の情報も? ああ、今回は、めったにない出物ですね……交易マフィアの幹部なんて、久方ぶりの逮捕でしょう。賞金もなかなか良い金額で」 「う……」  確かに、今回の獲物はめったにない上物。  それに、そろそろまとまった金を手に入れなければ、俺も色々マズイことになる。  このまま金欠(ゲルピン)が続けば、家賃も払えそうにねぇし、シップの燃料(タンク)補給もままならない。  それはつまり、仕事にならんということ。まさに、おまんまの食い上げ。  人生、早くも「詰み」だ。  俺が唸っている間にも、店主はジリジリと、間合いを詰め続けている。  一歩、また一歩と後ずさっていた俺は、ついに追い詰められ、古い革装の本で満杯の書架に、ドンと背中をぶち当てた。
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