ある赤砂嵐の日に

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ある赤砂嵐の日に

(1) 「大変申し上げにくいのですが、JJ」 「なんだよ、店主」  俺はジーンズのポケットに両手を突っ込んだまま、眼前に座るブリティッシュアクセントの声の主を見下ろす。 「貴方の当店への未払金を、このように請求させて頂きたく……」  店主がごく古風な「紙製」の請求書を、スッと俺へと滑らせた。  今日はひどい赤砂嵐で、表はヘアドライヤーみたいな熱風が吹き荒れていた。だが、ローズウッドの重厚な書架とあまたの古書で埋め尽くされた店内は、いつもどおりごく涼しく、そして静かだった。  そして店主のジジイも、いつもどおり銀縁オーバル型の繊細な眼鏡を掛け、三つ揃いのスーツのジャケットだけを脱いだ服装で、オーク板のテーブルの向こうに、スラリと腰かけている。  いつもどおり、丁寧に撫でつけられた銀色の髪。  時折、折り曲げた中指の関節で眼鏡のブリッジを軽く押し上げるのは、このジジイの癖だ。  店主は、片手で古書のページをゆっくりとめくりながら、もう片方の手で、空中に小さく散らばるヴァーチャルスクリーンを操作している。  俺の方などチラとも見ないのも、いつものことだった。  俺は差し出された紙片を手に取る。     
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