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「いい、美桜」 怒っているのとも、悲しんでいるのとも違う。 幼い子供には困惑という微妙なラインが見分けられないのか、3歳になる桜庭 美桜はきょとんと母親を見上げた。 「あなたのそれは、誰にでも受け入れて貰えるものじゃないの。もしかしたら葵くんにだって……。だからね美桜、ママと約束しましょう」 するりと、白く細い小指が美桜の目の前に伸びる。 「その想いは、お外には出さないって」 なるほどこれは、だめなことなのか。 強張る母親の表情にぷっくりした唇を噛んだ美桜は、まだ小さく柔らかい小指をゆっくりと絡めた。 「やくそく、する」 「……ごめんね美桜、あなたの為なの」 強く抱き寄せられた時の温もりは、とうに朧なのに。 「俺のため、か……」 泣き出しそうに歪んだ母親の表情は未だ鮮明で。 高校生になった美桜の脳裏には、小指にはまだ、あの時の約束が絡み付いたまま。 美桜は遠い月明かりに目を伏せ、ベッドに倒れ伏した。
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