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指定鞄を肩に掛けて振り向いた美桜は、じとりと目を細めた葵の不満顔に気付かないフリをして、彼を追い抜いた。革靴がコンクリートを叩く軽い音が朝の空気に鳴り響く。 「えっちゃん、はやくー」 柔らかい朝日が美桜の髪を揺らす。 葵はそっとため息を吐くと、機嫌良さそうに浮かれる美桜の隣に並んだ。 「今日は?」 「母さん? 夜勤でいないー」 「晩は」 「多分大丈夫。ダメだったら、えっちゃん家行ってもいい?」 「とりあえず先に連絡入れとく」 言うや否や携帯を取り出した葵を横目に、美桜は少しだけ、母が自分のことを忘れていればいいなと思ってしまった。 だってそうすれば、葵と重なる時間がまた増える。
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