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背を預けた扉が、音もなく揺れる。 美桜ははっと短く息を吐き出し、今さら震え始めた手をぎゅっと握り合わせた。 「……ぁ、鞄……」 頼りなく視線を揺らし、朧な声が呟く。 今になって初めて、美桜は実感していた。 今のままでも構わないと悠長に構えていられたのは、美桜がただ、なにも知らずにいたからなのだと。 カタンと椅子を引き、ずっとそこにいたかのように腰を下ろす。人のいない校庭はやけに寂しくて、遅すぎる不安が少しずつ大きくなっていく。 もしも、葵が小野浦に応えていたら。 美桜がここは安全だと油断していた足元はきっと、いとも簡単に崩れてしまうのだろう。 「……どうしよう、俺……」 そこまで、深刻に考えていなかった。 いつだって本気の彼女たちを見ていたはずなのに、気付かないふりをしていたのかもしれない 鞄を枕に目を閉じる。 伝わる振動に足音が聞こえて、美桜は息を吸った。 ゆっくりとした落ち着く足音は、葵に違いない。
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