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「えらく、上の空だな」
冴え渡る青空はまるで昼過ぎのように。
少しばかり赤味が混じるそれをぼんやり眺めていた美桜は、咎める声にハッと葵を振り向いた。
見上げた横顔が、拗ねたように口を尖らせる。
美桜は後ろめたさの裏で少しホッとして、ゆるりと口角を上げた。
「ごめん。えっと……なんだっけ?」
「今日も家、1人なのか」
呆れた顔をした葵が視線を下げ、目が合う。
窓越しのそれを思い出した美桜はさっと視線を逸らし、遠くから駆けてくる小学生に目を細めた。
「うん、明日までは。なんで?」
「今晩はカレーだと朝から母さんが言っててな。良ければさくらも連れて来いと。好きだろう、母さんのカレー」
「……好き、だけど……」
学校という外の世界ではない。
葵の家、もしくは部屋という孤立した空間で、今の美桜には余計なことを口走らない自信がなかった。
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