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目を伏せて躊躇う美桜に、葵が足を止める。
すれ違う小学生の訝しむ視線のなか、意を決して顔を上げた美桜を、葵の浅いため息が迎えた。
「ごめん、少し話したいこともあるんだ。予定がないなら来て欲しい」
「っ……、」
穏やかで優しいいつもの顔をして、声は固く。
なんの話かなんて問わずとも分かってしまう美桜は、短く息を飲んで、小さく頷くしかなかった。
「……今から、の、方がいい?」
「さくらの都合が悪くなければ」
「……、分かった」
鞄の肩紐を握る手に力が入る。
怒られるだけならきっと、耐えられる。
だけどもしも、小野浦とのことだったら。
「……、っ」
考えただけでみぞおちが痛むような状態で、どこまでを隠し通さなければいけないのだろう。
美桜の住むマンションを横目に10分。
葵はポケットから取り出した鍵で玄関を開け、美桜を招き入れた。
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