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「上に、いたね」
カッターシャツからネクタイを引き抜く音に、麦茶の中を泳ぐ氷がパキンと呼応する。美桜は思わずしていた正座のまま、すっと背筋を伸ばした。
「ごめん、その……偶然で。先生の手伝いした帰りに音が聞こえて、入ったらあの教室で……だからその、わざとじゃないっていうか……」
「大丈夫、そうだと思ってた。普段のさくら見てたら、そんなことしないって分かるよ」
「……ごめんなさい」
きゅっと肩を寄せて体を小さくする美桜に、シャツの袖を捲り上げながら葵がふっと笑う。
「別に怒ってないから、そんなに謝らなくていい。彼女は気が付いてなかったみたいだし、平気」
「……彼女……」
ごめんか、ありがとうか。
返事を考えていたはずなのに、美桜の唇から溢れたのは、拾ってしまった予想外の言葉で。
「気になる?」
机よりも集中出来ると葵が気に入っているローテーブルを挟んだ向かい側で、すっと影が動く。問われた言葉を反芻した美桜は、さっと顔色を変えた。
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