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* * * 「上に、いたね」 カッターシャツからネクタイを引き抜く音に、麦茶の中を泳ぐ氷がパキンと呼応する。美桜は思わずしていた正座のまま、すっと背筋を伸ばした。 「ごめん、その……偶然で。先生の手伝いした帰りに音が聞こえて、入ったらあの教室で……だからその、わざとじゃないっていうか……」 「大丈夫、そうだと思ってた。普段のさくら見てたら、そんなことしないって分かるよ」 「……ごめんなさい」 きゅっと肩を寄せて体を小さくする美桜に、シャツの袖を捲り上げながら葵がふっと笑う。 「別に怒ってないから、そんなに謝らなくていい。彼女は気が付いてなかったみたいだし、平気」 「……彼女……」 ごめんか、ありがとうか。 返事を考えていたはずなのに、美桜の唇から溢れたのは、拾ってしまった予想外の言葉で。 「気になる?」 机よりも集中出来ると葵が気に入っているローテーブルを挟んだ向かい側で、すっと影が動く。問われた言葉を反芻した美桜は、さっと顔色を変えた。
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