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言えないことより、この場所を失くすほうが辛い。
頑なになる美桜に葵は1つ瞬きをして、身を小さくする美桜の隣にそっと腰を下ろした。
「……美桜」
「っ……えっちゃ、」
空気から伝わる体温は、約束を解くように強く。
揺れる美桜の目を覗いた葵は、青ざめて冷えたその頬を両手で包み込んだ。
「俺の顔、ちゃんと見て」
「……、っ……」
「美桜、言って。俺はちゃんと聞きたい」
背けた視線を合わせるように頬を覆う手に力がこもって、吸い込まれそうなほど黒い瞳が美桜を覗く。
全てを知っているからと、強い視線は美桜を促し。
張り詰めた空気を照らす陽光は穏やかに、それでいて激しく、葵の請うような目を浮き彫りにしていく。
吸い込んだ空気にひゅっと喉がなり、吐き出した息に僅かな声が乗った。
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