掌から零れ落ちたものは……

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 ぐったりと畳の上に両手を投げ出した詠史から、整わない呼吸のままに途切れ途切れの掠れた声が小さく返された。  激しく上下する詠史の胸が、体重をかけすぎないように自重を腕で支えた尊人の胸に触れては離れてを繰り返している。 「……初めてのときより……しんどい…‥」 「加減ができなかったからな。おまえがこの10年、誰も受け入れていなかったなんて、理性が吹っ飛んでも仕方ないだろう?」  悪びれもせずにしれっと返される言葉に滲む歓喜が、羞恥を煽った。  まだ汗で濡れた背中に腕を回し、引き寄せた程よく筋肉を纏った引き締まった胸に顔を埋める。しっとりと肌を濡らす汗が頬を湿らせるけれど、それすらも愛おしくて、胸板の中央を走る微かな溝に舌を伸ばしてちろりと舐めあげた。 「おまっ、また()かされたいのか?」  焦ったような尊人の言葉にほんの少し溜飲(りゅういん)が下がる。あの嵐に舞う木の葉のように翻弄(ほんろう)される熱も悪くはないと思うけれど、今はただ、こうして胸の奥から直接耳朶を打つ鼓動を味わっていたかった。 「もう若くないから無理だって。それに、さ、こうして腕の中にある重みが幻じゃないって実感していられるのが嬉しいんだ」
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