掌から零れ落ちたものは……

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 思いもよらない再会から1週間が経った。  田を渡って吹きつける木枯らしが、すっかり色の褪せた草紅葉の枯れた葉をかさかさと揺らしていく。  乾いた冷たい風に髪を揺らされながら、小さなボストンバックを手に駅への道をゆっくりと歩く詠史の心は、初めてこの地に降り立ったときとは裏腹に、温かいもので埋め尽くされていた。  アパートの引き渡しを終えて、手に馴染んだ古びたドアノブを回して部屋を出る。詠史の目の前には、ドアを囲むようにお世話になった瑛子をはじめ年配の男女の姿が10人ほど、詠史が姿を現すのを待ち構えていた。 「詠史くん、本当に行っちゃうのねえ」  割烹着のポケットから取り出したハンカチで目元を拭う瑛子の言葉を筆頭に「淋しくなる」「本当の孫のように思っていたんだよ」と口々に別れを惜しむ声が詠史を取り囲む。 「いつでも遊びにいらっしゃいね」  ふっくらとした瑛子の手が詠史の手を包み込んだ。その温かさに胸がいっぱいになって、視界が水の中で目を開けたときのように揺らぐ。 「もう、永遠の別れじゃないんだから、また顔を出しに来るよ。そのときに『なんだ、本気にして来たのか』なんて意地悪は言わないでよね」     
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