掌から零れ落ちたものは……

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 視線を()らすこともできない詠史の口を割って出た小さく(かす)れた声は、いつもの飄々(ひょうひょう)とした明るい声とは別人のもののように耳に届く。簡単に揺さぶられる(まま)ならない心に舌打ちしたい気持ちになった。  視線を外さないのが己の意地だとばかりにじっと、切れ長の涼し気な双眸(そうぼう)(にら)みつけるように見つめる詠史の瞳を真っ直ぐに見つめ返す尊人の瞳は静かに()いで感情を読ませない。  突然別れを告げて姿を消した自分を憎んでいるだろうとずっと思っていたけれど、怒りや憎しみといった負の感情は見受けられない気がする。  戸惑いを隠せずにただ見つめる詠史の前で、尊人はゆっくりとその長い脚を折ってしゃがみ込んだ。近くなった視線に居心地の悪さを感じた詠史が俯こうとするよりも早く、大きな手が(おとがい)を掴んでそれを(はば)む。 「探したよ詠史。まさかこんなところに隠れてたとはね」  逃げることを許さないとばかりに、細い顎を掴む指に力が籠った。 「ちょ……離してよ。ボクたちはもうなんの関係もないでしょ? 隠れてたとか人聞きの悪いこと言わないでよ」  頤を掴む記憶と変わらない長い指から頭を振って逃れた詠史が、辺りを(はばか)るように小さく異議を唱える。 「俺はあんな言い逃げ認めてないからな。じっくりと話し合おうじゃないか」  精一杯の虚勢を鼻で笑った尊人の瞳に揶揄(からか)いの色がないことに戸惑う。     
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