掌から零れ落ちたものは……

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 戸惑いの声を上げる詠史の大きめのパーカーに包まれた背中を優しく押して、詠史の座っていたパイプ椅子に腰を下ろした。ふくよかな瑛子の重みにぎしりとパイプ椅子が(きし)んだ音をたてる。 「すみません。お言葉に甘えて詠史をお借りしますね」 「気にしないで、小さなお祭りだけど楽しんでいってくださいね」  どこか遠いところから聴こえるふたりのやり取りに、詠史は逃れられないことを悟って小さな溜息をひとつ零した。  
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