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10年前、大学4年になったばかりの頃だった。同じ教授に師事していた尊人と付き合うことになって1年が経ったその日に「法的には結婚できないけど、生涯を共に生きたい」と小さな天鵞絨の小箱を手渡された。その頃には既に、尊人以上に想える相手に出逢うことは無いと思っていたから、驚いたのと同時に同じ想いを抱いてくれたことが、天にも昇るくらいに嬉しかったのを覚えている。
小さく頷いた詠史の左手薬指に、シンプルなプラチナの指環を嵌めてくれた節ばった尊人の指先が緊張に震えていた。
両親が居らず施設で育った詠史は、初めて得た家族と等しい存在に浮かれていたのだと思う。尊人が永嶺グループの御曹司だということを忘れてしまうくらいに。
奨学金を貰いながらも、生きていくためにバイトに明け暮れる詠史を心配した尊人に請われてマンションで共に過ごした幸せな日々。
誰に恥じることも無いとペアの指環をしたふたりを、あるがまま受け入れてくれた友たち。生きていて良かったと思えるような幸福は、尊人が実家に呼ばれて不在のときに訪ねてきた人物によって繊細なガラス細工のように、脆くも崩れ去ることとなる。
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