第1章 天国と地獄

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 麻耶は、何も言い返せなかった。天国に行っても祖父母とは会えない、という衝撃の言葉に打ちのめされて、返す言葉が見つからなかった。  男が言たことがもし本当なら、祖父母どころか、天国では、天涯孤独の身となる。 「いいかい、キリスト教、仏教、イスラム教、世界の宗教家たちが吹聴している 神の世界、極楽浄土の天国なんて、ないんだよ。古代人が作り出した妄想を、AIが人間に代わって世界を支配するかもしれない時代になっても、アホみたいに信仰している。まあ仕方がないことだけどね。宗教が誕生して人の遺伝子に刷り込まれてきた。たとえ宗教は違っても、いまも多くの人間が信じ切っている」  今度は、にわか伝道師にでもなったような口振りで、まったく妄言にしか聞こえない言葉を並べてきた。  麻耶は、 白人のアメリカ人の父が熱心に信仰しているキリスト教を、どこか小馬鹿にしたように聞こえる言動に強く反発した。  信仰心の熱い父の人生を否定されているような気がして、直ぐにでも言い返そうと思ったが、自分の浅い知識では反論できるような言葉が思いつかなかった。  代わりに、心の中で、男の言葉を強く蹴飛ばした。         
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