第1章 天国と地獄

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 それからしばらくして、光の輪を抜けると、眼下に見知らぬ緑の大地が白雲の合間から垣間見えた。その大地にふわりと降り立つと、緑の草原だけが、どこまでも砂漠のように広がっていた。あとは何もない。現世のような美しい山々や森もない。もちろん街や集落どころか、建物は一軒もない。  自分の股のつけ根ほどの高さの緑の草原が、見渡す限り延々と、どこまでも続いているだけだった。  イエス様はどこにいるの? 神様はどこなの? 教会の牧師が説いていた神の世界は? あの神様がいる天国の話は嘘だったの? と胸に声を落とした。  こんなところに1人で住むことになったら、きっと死んでしまう。いや、既に死んではいるが。死ねなくても発狂してしまうだろう。 「ここが、天国だ。見ての通り、何もない。寂しくて他の霊と話をしたければ、この緑を駆けずり回って相手を探さないといけない」  草原を見渡しながら、吐息のような声で説明してきた。  麻耶は男の口振りと、その曇った表情を見て思った。天国がどういうところなのかを知っていたということは、おそらくここに来たことがあるのだろ。現世での話しぶりと違って、元気が失せたような口調だけなく、その姿は、ひどく寂しそうにしていた。              
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