第1章 天国と地獄

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 麻耶は男の声を耳にしながら、嘘だろ? と呆けたように口をあんぐりと開け、眼を大きく見開き、他に何かないか周りを見渡した。が瞳に映るのは、何かのテレビ番組で見たことがあるアフリカのサハラ砂漠のようにうねった見渡す限りの草原と、文字通り雲一つない青空だけだった。  口をあんぐりと開いたまま、いや、ここは天国なんかじゃないわ。ぜったいに嘘よ! と心で絶叫していた。 「おまえたち、夫婦か?」背後から、萎れた声が聞こえた。  その老けた声に、ビクッと驚いて聞こえた方向に振り返ると、草むらの中からひょいと出てきた皺だらけ顔の白髪の髭の長い老人が、右手に根が紐のように長い、球根のようなものを持って立っていた。 「指には結婚指輪をしてはいないが、二人とも首に、お揃いの首輪の痕をつけて、現世の最近の流行りかい?」  手ぶらの左手の人差し指で、二人の首を指さしながら、軽口を吐いてきた。 「いえ、事情があって、結果的に同じような痕が首に付いているだけです。彼女と僕は、何の関係もありません」  麻耶が反発した声で言い返そうとすると、代わりに、男がすかさず答えた。      
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