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「お嬢ちゃん、さっきから、イライラしているようだね。初めは誰もがそうなる。世界中の人たちが描いている天国とは、えらい違いだからな。中には発狂しそうな人もいる」
老人が吐息を吐くように一呼吸を置くと、観察するような眼を顔に向けながら、皺がれ声を続けてきた。
「だがね、 地獄を眼にしたら、やはりここは天国だよ。来る日も来る日も地獄の炎に焼かれ、逃げることも死ぬことも許されず、永遠に卒倒するような激痛を、苦しみを負わされる地獄と違って、ここではそういうことは一切ない。住めば都だ。ここでのおじいちゃんの友だちは、この草むらに隠れている虫たちだ。そうここでは、たとえ虫でも生き物を殺しちゃいかんぞ」
さっきまでの冷やかすような口調と違って、老人は柔和な顔をしながらも、重厚な口調で口を吐いてきた。
その説明を耳にして、どこに虫がいるのか、と草むらに眼をやった。が、見つけることはできなかった。
ここでは昆虫を探すのも、大変なんだろうか? と思ったら、1匹のバッタが宙に飛び出すと、後に続けとばかりに無数の仲間が飛び出してきた。
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