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「でもね、お兄ちゃんは、死にたいとは思わない。だって死んだりしたら、お母さんはすごく悲しむし、真美の顔も見られなくなる。2年経ったら、中学を卒業だ。そしたら、その不良たちとも合わなくなる」
兄は両肩を掌で包むようにしながら、話し聞かせていた。
すると妹は、興奮していた心が落ち着いてきたのか、冷蔵庫に眼をやった。冷蔵庫は、母親の給料日前は、いつも空同然だった。
「お母さんが作った麦茶をいっぱい飲めば、お腹がいっぱいになるかもね」
冷蔵庫を見たまま、気を取り直したように 口を吐いてきた。
「あんまり飲みすぎるなよ。夜中、おねしょ、しちゃうぞ」
妹の口振りにホッとしたのか、兄が軽口を吐いてき た。が、その眼は哀しそうにしていたままだった。
それから二人は、それぞれの宿題と格闘していた。
その様子を男の隣に浮いて悲しい眼で見ていた麻耶は、励ましの声を二人に直接、掛けてあげたかった。だが、美香のように霊が見えない二人には、声は届かない。
代わりに、二人に幸せが訪れることを、心で強く願った。
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