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そこに、この恐ろしい幽霊がゆらりと立っていた。
「話したくはありません」
「そうか、言いたくないか。まあいい。別に、無理に訊こう は思わん」
理由を拒む声に、今度は、どこかつっけんどんの声を飛ばしてきた。
その皮肉も混ぜたような口を吐く、男の首輪のような傷跡を眼にしていて、この男も首吊り自殺したのだろう、と思った。
きっとそうだ、間違いない、との考えが頭に浮かぶと、あんたさあ、わたしのことをどうこう、責められる立場なの? と恐怖心の代わりに、反発心が湧いた。
「あの、もういいですか。これから、祖母と祖父を探しに行きますので」
これ以上、こんな男の相手はしたくない、という眼を付けて、声を返した。
「おじいちゃんとおばあちゃんは、いつ亡くなった?」
首吊り仲間で、傷ついた心の傷でも仲良く舐めあうため引き留めようとしているのか、それとも、美少女の女子中学生と、まだ長話をして いたいのか、またもしつこく訊いてきた。
「おじいちゃんは7年前に、おばあちゃんは5年前です」
仕方ないという顔で応じると、側を離れる準備をした。準備といっても男と逆の方向に、足の向きを変えるだけだが。
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