高柳&凛子夫婦のお話(1)

18/51
前へ
/576ページ
次へ
「お腹が空いてないの?」 「そういうわけじゃない。最近、ずっと凛子が作った朝食だったから、なんだか物足りない」 そう言われ、自分が作っている和食ばかりの食事を頭に思い浮かべる。 白米にお味噌が恋しいのだろうか。 それとも、彼の食の好みは、私の作る料理が基準となっているのだろうかと思うと、一気に頬が緩んだ。 「……たまにはパンも美味しいわよ。食べましょう」 今にも満面の笑みを曝け出しそうになり、必死に我慢した。 高柳はそんな私に気付かず、席に座る途端、ため息交じりに口を開く。 「今夜はキミの作った料理が食いたいな」 「いつでも作るわよ……つ、妻なんだから」 あぁ、もう駄目だと思ったけれど、そんなのはもう遅い。 私は微笑む口元を手で隠し、照れながらも返事をした。
/576ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9871人が本棚に入れています
本棚に追加