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(なんか、さわられると、ちょっとだけ肩がサイダーみたいに、しゅわしゅわする)
私は少し前を行く、桜月さんの首筋や背中を見上げる。
背の高さ、私より幅のある体躯、背筋の引き締まり、ティシャツからわずかに透ける上腕の盛り上がり。
(男の人って、なんか女の人と違うな)
私は不思議な感じがした。
(桜月さんって、“お兄ちゃん”って感じだけど、“お兄ちゃん”っていうのも違う)
「いい匂いだね」
桜月さんはオーブンを開けた。
ほかほかとした湯気と甘い香りが漂う。
「よし」
桜月さんがオーブンから引っ張り出す。
ミトンもなく、タオルを折り曲げている。
こういうとき、咄嗟に思いつくあたりが、(お料理、きっとするんだな)って感じ。
「ほら」
焼きたてほかほかクッキーを爪で取り上げ、桜月さんは私のの口に運ぼうとする。
「ほら」
(え?)
「“あ~ん”は?」
「え、あ、////」
私は恐る恐る口を開けた。
「「“あ~ん”」」
2人して「あ~ん」という。
前歯でクッキーを挟むと桜月さんは微笑む。
愛おしい眼差し。
「俺もいただこうかな」
桜月さんがつまもうとしたので
「あ、じゃあ」
私も桜月さんの唇に……
(え)
桜月さんは真っ赤になっている。
全身のぼせたようになりながら口を開けていた。
少し前屈し、私に近づいたかと思うと目を閉じているのだ。
(わわ!これは!)
ドキドキしながらクッキーを入れる。
舌先で溶かすように味わう表情。
(目、閉じっぱなしだし)
その顔が艶っぽい。
桜月さんは、全体的にストイックに見えるのに
時折、豊穣で
溢れるように色気がある。
「おいしい」
桜月さんの、微かに開いた瞳と唇。
本当にわずかな微笑み。優しさがにじみ出ていて。
「お皿にとろうか」
「あ、はい」
「ココアとかでも作る?」
「ペンで絵も書けますよ」
「あ、それは楽しそうだ」
「今度しましょう。
タコパとかナベパとか」
「タコパ?ナベパ?」
「たこ焼きパーティー、鍋パーティー」
「なるほど」
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