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彼と出会ってからひと月ほどして、ワタシの方から想いを伝えた。
「知っていたよ」
アナタはそう言ってわざとおどけた風に、笑った。
あれから2年、アナタと過ごしてきた日々はワタシの悲しみを消して、その代わりに幸せを植えつけてくれた。
それはもう、ワタシの全てを払っても返せないくらいの幸せ。
「今日は特別な日だ」
2年付き合ってきて初めてみた、アナタのその表情。
なんだか悲しそうに見えて、ワタシは無意識に彼の手を握ろうと手を伸ばしたのだけど、彼はその手をポケットに隠してしまった。
「えっ?」
初めてのことだった、まるで彼がワタシを拒絶したかのような反応。
「ごめんな。けど、僕は君が幸せになるのを待ってたんだ」
その声は、冬の風のように冷たく、夜の暗さを抱いていた。
「君が心から幸せだと思える時を待っていたんだ」
彼はポケットから手を出すと、その中に持った物から銀色の物体を引き出した。
「今の君は幸せだろう? 世界中の誰よりも」
銀色に光っているのはナイフだと理解出来たのはその時だった。
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