1 Sirius

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『そこまでは言ってない。けど、平たく言えばそう言うこと。星名は無難を気にしすぎる余り、何もミスってないんだよ。考えてもみろよ。怖いだろ、そんな一緒にいて全く何も間違えない奴なんて』 「寝坊して遅刻したじゃないか」 『それの何処が醜態に値するんだよ。分かってるんだろ? プライドが高いのかしらないけど、お前は自分の汚い部分、他人には見せたくないんだ』 「随分と知ったような口利くんだな。俺ら、まだ会って三日くらいしか経たないのに。それに今、お前が言ったこと全部、本当だとは限らないだろ。何処にそんな証拠が、」 『そうやって生きんの、辛くねぇの?』 「……」 『俺は辛く見えたよ。お友達と一緒ん時の星名。いや、あの坂道で会った時以外の星名はずっと苦しそうに見えた』 「……何が、目的だ」  俺の声は掠れていた。色々としでかしてしまった。後悔しかなかったが、今更引き返すことも出来ない。なら、続けるまでだ。 「お前の目的は何だ? 金か?」 『星名って結構バカだよな。俺、会った時からずっと言ってんじゃん。朝起こしてくれって』 「……そんなこと」 『朝、起こしてくれればいい。そしたら、俺はもうお前のクラスの教室に行くこともないし、お前のお友達に何か言うようなことも、何より、お前に干渉するようなことは一切しない。約束する』  何だ、それ。  拍子抜けしたような感覚に陥って、俺は思わず傍にあるベッドに座り込んだ。いつしか手に汗を握っていたが、それすらバカバカしく思う。  雨宮昴の要求は最初からたった一つだけだったなんて。  ずっとおちょくってるのかと思っていた。俺の反応を見て楽しんでいるんじゃないかと。  でも、これじゃ、全く違う。  まるで硝子が粉々に割れるかのように俺の中の雨宮に対するイメージが壊れていく。  残ったのは、変な奴、と言うことだけだった。

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