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『そこまでは言ってない。けど、平たく言えばそう言うこと。星名は無難を気にしすぎる余り、何もミスってないんだよ。考えてもみろよ。怖いだろ、そんな一緒にいて全く何も間違えない奴なんて』
「寝坊して遅刻したじゃないか」
『それの何処が醜態に値するんだよ。分かってるんだろ? プライドが高いのかしらないけど、お前は自分の汚い部分、他人には見せたくないんだ』
「随分と知ったような口利くんだな。俺ら、まだ会って三日くらいしか経たないのに。それに今、お前が言ったこと全部、本当だとは限らないだろ。何処にそんな証拠が、」
『そうやって生きんの、辛くねぇの?』
「……」
『俺は辛く見えたよ。お友達と一緒ん時の星名。いや、あの坂道で会った時以外の星名はずっと苦しそうに見えた』
「……何が、目的だ」
俺の声は掠れていた。色々としでかしてしまった。後悔しかなかったが、今更引き返すことも出来ない。なら、続けるまでだ。
「お前の目的は何だ? 金か?」
『星名って結構バカだよな。俺、会った時からずっと言ってんじゃん。朝起こしてくれって』
「……そんなこと」
『朝、起こしてくれればいい。そしたら、俺はもうお前のクラスの教室に行くこともないし、お前のお友達に何か言うようなことも、何より、お前に干渉するようなことは一切しない。約束する』
何だ、それ。
拍子抜けしたような感覚に陥って、俺は思わず傍にあるベッドに座り込んだ。いつしか手に汗を握っていたが、それすらバカバカしく思う。
雨宮昴の要求は最初からたった一つだけだったなんて。
ずっとおちょくってるのかと思っていた。俺の反応を見て楽しんでいるんじゃないかと。
でも、これじゃ、全く違う。
まるで硝子が粉々に割れるかのように俺の中の雨宮に対するイメージが壊れていく。
残ったのは、変な奴、と言うことだけだった。
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