method of location

17/18
前へ
/140ページ
次へ
 自分が亘の立場だったら、と考える。セックスして恋人同士になれたと思っていたのに、相手がそのことを忘れていたら。  ――ショックだよ。忘れられたら、どうすればいいのか分からなくなる。  男としたことを後悔して、忘れた振りをしているのだと疑心暗鬼になったかもしれない。  三回も忘れられたら、諦めた方が楽だと思ってしまうかもしれない。  ――でも亘は。また俺と付き合ってくれた。  自分の体に馬乗りになって、項垂れている男が、どうしようもなく愛おしいと感じた。同時に、失った記憶を今すぐにでも取り戻したいと思った。  なにかあるはずだ。記憶が消えてしまう原因が。 「なにか――なにか気になることとかなかった? 俺としたとき」  それが分かれば思い出せるかもしれない。有は希望を見出したくて必死だった。  亘が考えこむように顎に手をあてていたが、すぐに閃いたように瞬きをする。 「ああ――気になるって言うか、心配になったことはある。終わったあと、有はいつも言ってた。『幸せ過ぎて怖い』って」  ――シアワセスギテコワイ。  頭のなかでそのフレーズを反芻した瞬間、甲高い耳鳴りが鼓膜から脳に走った。首が痺れる。  自分が言った覚えはなかった。だが、誰かから聞いたような気がする。     
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

692人が本棚に入れています
本棚に追加