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マンションに帰宅した時刻は二十三時ちょうどだった。食事をする気力もなく、有は手洗いうがいをしたあと、寝室に向かった。
ベッドサイドのテーブルには、亘に借りた心理学の本が置いてある。時間ができたら読もうと思っていた『認知心理学・入門編』だ。
有は本を開き、目次を確認した。あると思っていた単語が章のタイトルになっていた。
――記憶。
記憶の章を開く。ページの右肩には折ったような跡がある。
――やっぱり亘はこの章を読んでいたんだ。
知らないのは自分だけだった。亘はこのページをどんな気持ちで、何度読んだのだろう。そう考えただけで胸が詰まった。
下線が引かれた箇所があったので、その文を目で追った。
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