interference

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――エピソード記憶には、先に経験したことと後に経験したことがお互いに影響しあうことによって記憶があいまいになる場合がある。このような現象は干渉とよばれる。事件の目撃者が、後に警察の聴取で犯人候補の写真を見せられることによって、目撃した犯人の顔と写真の顔を入れ替えてしまう現象を説明することができる。この例の場合には、後学習が前学習に影響を及ぼしたもので逆行干渉とよばれる。逆に前学習が後学習に影響する場合を順行干渉という。  ――亘が気にしていたのは、このことなのかもしれない。  干渉を受けずに、素のままの記憶を取り戻してほしいと亘は考えたのかもしれない。 「俺のために、だよな」  亘は自分のエゴだ、と言っていたが。 「俺、ちゃんと好かれてたんだ」  そうでなければ、こんな本まで読んだりしない。自然に記憶が戻るのを待ってくれたりはしない。  ――俺は亘のことを疑ってばかりだった。 セックスレスの理由も決めつけていた。亘が男の体を受け付けないからだろうと。本当は自分に問題があったというのに。  亘が帰ってきたらすぐにでも謝ろうと思った。 「早く帰って来いよ」  自分の声が木霊する。一人で寝室にいるのは寂しい。もう亘がここにいるのが当たり前になっているのだ。亘の存在は、同棲した八カ月の間に、こんなにも大きくなっている。セックスをしていなくても。  一刻も早く亘に会いたいと思った。だが、有がシャワーを浴びて歯を磨いたあとも亘が家に帰ってくることはなかった。代わりにLINEのメッセージがひとつ。     
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