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「十二月だったわ。加代子と私で銀座を歩いてたら行列ができている宝くじ売り場があったの。そこで私が一緒に買おうよってあの子を誘ったの。最初は『宝くじなんて当たるわけがない。お金の無駄』って嫌がってたけど、なんとかその気にさせたのよ」
たしかに母は、宝くじや賭博といったものに興味がなかった。だから、宝くじを当てたと打ち明けられた時は意外に思ったものだ。
「半額ずつ出し合って、十枚一セットを二人で買ったのよ。私が上の五枚、加代子が下の五枚を取った。当たったのは加代子だった」
伯母が悔しそうに唇を震わせた。
「それなのに、私に当選の報告もしてこなかったのよ。私からおめでとうって連絡したら、すごく気まずそうに『ありがとう』って。私のお陰なのに私には当たったことを隠そうとしたのよ。共同購入ってことで銀行に二人で受け取りに行こうって持ちかけたけど、拒否されたわ。あくまで私が買った分の宝くじだからって」
ここまで聞いているうちに、ちょっと伯母に同情の余地があると思ってしまった。お金を出し合っているのだ。共同購入と言えなくもない。伯母が嘘を言っていなければ、の話だが。
「大金を掴むと人って変わるんだなって、その時感じたわ」
話し疲れた様に、伯母がふっと息を吐き、麦茶を一気に飲んだ。
「とにかくそういうわけでね、宝くじが当たったお金でここを買ったんだから、私も住む権利があると思うの」
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