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「いや――それは違うでしょう。考え方が、根本的に。母の名義で購入しているし、今は俺が相続してるんですから」
負けじと有は反論した。
「伯母さんがやっていることは犯罪ですよ。不法侵入と窃盗。母のバッグを盗んだのは伯母さんでしょう?」
「あれだって、宝くじのお金で買ったんでしょう。私が使う権利がある」
唾を飛ばして言い返され、有は怒りを通り越して脱力感を覚える。このまま話していても埒が明かない。もう会わない方がいいのかもしれない。金はかかるが間に弁護士を立てたほうが、伯母も冷静になってくれるだろう。
「とにかくエントランスの鍵は返してください」
有は立ち上がり、テーブルのスマホを手に取った。もう十二時五分前だった。伯母に出て行ってもらわないと困る。亘もそろそろ帰って来てくれないと――と、LINEのアプリを開こうとしたとき、通話の着信があった。藤崎の携帯番号だった。有は通話ボタンを押しながら、小声で伯母に「帰ってください」と言った。が、彼女は地蔵のように椅子に座ったままだ。
「穂村、ちょっと今いいか。移動中か?」
藤崎の抑えた声が聞こえてくる。
「いえ、まだ家を出てないんです。すみません、一時に間に合わないかもしれないです」
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