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「あ、そうなのか? なら一日有給取っちゃえよ。今日はそんなに仕事ないから。明日は忙しいから絶対来いよ」
明日から年末調整の処理が始まるのだ。残業必至なほど繁忙になる。
「じゃあ、そうさせてもらっていいですか」
「いいよ。それよりさ――いま図書館に来てるんだ。おまえの中学のときの事故、新聞で調べたんだよ」
「えっ――」
有は思わず絶句した。あのときの事故は新聞に載らなかったと記憶していた。
有はなんとなく、伯母の前で事故のことを話したくないと思った。リビングから離れ、寝室に入ってドアを閉めた。
「あの、どの新聞に載ってたんですか」
「Y新聞の全国紙だよ。地方ページっていうのがあって、そこに小さいけど載ってたぞ。七年前の三月十日付けだ。事故現場はK区」
地方ページといっても、有名な新聞社の全国紙だ。載っていたら自分も読んでいたはずなのに。
「穂村のご両親の名前、充さんと加代子さんだろ? そのふたりが死亡ってなっている。穂村は長男としか表記されていない。あと、加代子さんのお姉さんが乗ってたんだな。美津子さんっていう人」
伯母の名前を聞いたとたん、有の脳裏に閃光が走った。そして聞き覚えのある耳鳴りが両耳に流れて止まる。
――車のなかには伯母がいたんだ。
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