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――図書館にある新聞全部に目を通したんだけど、事故のこと、どれにも載ってなかったのよ。まあ、一般人の交通事故なんて日常茶飯事だからね。
そう言われ、そんなものかと納得してしまった。彼女の言うことを疑って、自分で調べようとは思わなかった。
伯母は有にとって、唯一頼れる親戚だった。父は一人っ子で祖父母は他界していた。母の兄弟は伯母だけで、祖父はすでに死んでいる。祖母は存命していたが、もう七十歳を超えていて、頼れる存在とは言い難かった。
寝室から出ると、リビングにはやっぱり伯母がいた。椅子に座って、ハンドバッグの中を漁っている。すぐに一口サイズのまんじゅうを取り出し、ぽいっと口の中に入れて有に笑いかけてくる。
「有ちゃん、電話終わった?」
いつもと同じように浮かぶ伯母のえくぼが視界に入り、有の全身はぞわりと鳥肌を立てた。体温は一度下がったみたいに寒いのに、喉はカラカラに乾いていた。
テーブルの上のグラスを取り、麦茶を飲みこんだ。
「俺にずっと嘘を吐いてたんですね。あの事故のとき、伯母さんは家にいたって言ってた」
有はそれを信じた。自分の記憶に自信がなかったからだ。
レストランを出たときは、たしかに父と母、自分の三人だった。だから父の買った新車に乗ったのも、三人だけだと思っていた。
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