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「でも違った。あの夜伯母さんも、一緒に食事をしてたんだ」
――お姉ちゃんは飲めないんだから沢山食べてね。
――すみませんね。お義姉さん。
ワイングラスに唇紋をベタベタとつけながら、両親が笑い声を立てた。伯母は黙々と料理を食べ、次のオーダーをウェイターに告げる。未成年の有も酒が飲めないので、いつもは食べられない高級料理を夢中で貪っていた。
両親の呂律が怪しいものになったとき、レストランは閉店五分前になった。父から車のキーを渡され、伯母は無言でレストランを出て行く。それを横目に両親はサービスのミネラルウォーターを飲んで顔を手で扇いでいた。
三人は外に出て、道端で待機していた車に乗り込んだ。小雨が頬に触れて冷たかったことを突然思い出した。
「なんで嘘を吐いたんですか」
伯母が嘘を吐く理由なんてたかが知れている。自分に都合が悪いことを隠したいからだ。
「ああ……思い出したんだ? 残念。もうずっと思い出さないから、一生忘れたままだろうって安心してたのに」
彼女はわざとっぽくため息を吐いた。
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