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トラック、というフレーズを聞いた瞬間、有の微弱だった頭痛がずくん、と大きく飛び跳ねた。
また思い出した。
トラックの後ろを伯母の運転する車は走行していた。有は少し嫌な予感を覚えていた。トラックの荷台には丸太が何段にもなって積まれていたのだ。できるだけ離れて走ってほしいのに、伯母は車間距離を縮めて走っていた。早く帰りたくて気が急いているのだろう――そう思うと、中学生の自分が意見するのも憚られた。だが不幸にも、有の悪い予感は的中したのだ。
大きな凹凸のある道を通ったときに、事故は起こった。そのとき父は寝ていた。母が助手席から身を乗り出して、有に話しかけてきた。
「幸せ過ぎて怖いわ」
記憶の中の母の声と、自分の声が重なった。
「なに? 急に変な事を――」
バカにしたように笑う伯母の顔から目を逸らし、瞑目する。
――そうだ、母さんは俺に向かってそういったんだ。幸せ過ぎて怖いって。
心底嬉しそうに笑いながら。
有は第一志望の高校に合格した。両親は念願のマイホームを購入したばかりだった。母は四月から勤め先で昇格することが決まっていた。父も今年度から年俸が上がると喜んでいた。家族全員が絶好調。母は宝くじに当たったばかりで、幸せの絶頂だったのだろう。
――幸せ過ぎて怖いわ。
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