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I'm so happy it's frightening.
午後三時過ぎ、ふたりは救急病院からタクシーを使ってマンションに帰り着いた。玄関に入ったとたん、有は苦笑しながら亘の腕を軽く叩いた。
「だから大丈夫だって言ったのに」
「いや、大丈夫じゃないだろ。伯母さんに一服盛られたんだから」
亘がまだ怒りを溜め込んでいるようにぶっきらぼうに言った。
「まあそうだよね――ありがとう、亘」
ストレッチャーの上で覚醒したとき、亘が心配そうに有の顔を覗き込んでいた。目があったその瞬間、有の脳内に彼との思い出の数々が流れ込んできた。
有が先に靴を脱いでいると、亘が「本当に大丈夫か?」とまだ心配そうに聞いてくる。
亘がこんなに心配性だとは思わなかった。
有は救急病院に向かう途中で完全に目を覚ました。搬送された先で血液検査と医師の問診を受けたが、問題なしで返されたのだ。
「伯母さんは、本気で俺に危害を加えようとはしてなかった」
軽い脅しのつもりだったのだと思う。通帳と印鑑は欲しかったようだが、あわよくば程度の考えだったのだろう。
麦茶にちょっと睡眠薬を入れた、と言っていた。伯母の予想以上に有に薬が効いてしまい、彼女自身驚いたのかもしれない。
亘が帰ってきてインターホンを押したとき、伯母はすぐにドアを開けたのだ。亘の話によると、彼女は彼と玄関で対面したとたん、体当たりをして逃げ去ったという。
有が上がり框からリビングに向かって歩いていこうとすると、それを阻止するように手首を掴んできた。彼ももう靴を脱ぎ終えていた。
「伯母さんのこと、どうするんだ?」
「もう一対一では会わない。弁護士に相談しようと思う」
「ああ、それがいいよ」
亘が納得したように頷いた。
「じゃあ、本題にいくか?」
有の手首に触れていた指が、ワイシャツの袖のなかに入ってくる。
「そうだな」
もう自分たちは話し合える段階に来ている。
有は亘の髪をそっと撫でた。
「お風呂に入ってからな」
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