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有は返す言葉を見つけられなかった。言われてみればその通りなのかもしれない。
「じゃあ男同士の俺たちに、セックス以上の幸せって何があるんだろうって考えた。まあ月並みだけど、一生一緒に暮らしていくとか、かなって」
亘がちょっと照れたように鼻を擦った。
「だから三月に一緒に暮らそうって言ったんだ。セックスなしでお互いのことをたくさん知っていって、信頼関係が築けたら何かが変わると思った」
「――亘、」
続きの言葉が出てこなかった。ここまで亘が考えてくれていたとは思わなかった。胸が熱く震えた。
「だから有がしたがってても、まだ早いって断っちゃったんだ。不安にさせてごめんな」
「謝んないでよ。元々俺が、記憶無くすのが悪いんだから。亘は俺よりずっと――いろいろ考えてたんだな。心もすごく広い」
自分の矮小さが嫌になる。亘がしたがらない理由を勝手に決めつけていた。モテる彼にヤキモキしたことも一度や二度じゃない。
「いや、俺も余裕はなかったんだ。最初はセックスなしで信頼関係を――なんて思ってたけどさ、ここのところは、違う理由でセックスレスになってたんだ」
「違う理由って?」
急に不安になる。なにか自分に問題があったのだろうか。記憶喪失以外で。
「不安そうな顔するなよ。いちいち可愛いな」
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