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亘がおかしそうに笑って、有にいきなりキスをしてくる。有の顔は熱くなった。
「セックスして、また有に忘れられたら、辛いから」
言葉を選ぶようにして、亘がゆっくりと話している。
「この八か月間、有と一緒に暮らせて、幸せだなあって思う事が沢山あったんだよ。一つひとつは小さいことなんだけどさ。朝、顔を合わせたらキスするとか、歯ブラシを新しいのに替えたらって有に言われたりすることがさ」
亘の最後の一言に、有の涙腺はとつぜん決壊した。だって自分も同じことを考えていた。同じことを感じていた。
ずっと自分のほうが彼を好きだと思っていた。だけどそうではなかったのだ。
「――亘、俺たち、しよう?」
「いいのか?」
亘が、有の頬に手を当ててくる。唇ですうっと涙を吸い取ってくれる。
「大丈夫。もう忘れないから」
有は自分から、亘の体に抱きついた。
もう幸せの最高レベルは、セックスじゃない。もっと欲張りになっていいんだと、恋人が言ってくれたのだから。
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