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言い募る自分の声がむなしく部屋に響いた。もう亘の瞳に、情欲は浮かんでいなかった。
有は無意識に、ベッドシーツを強く握りしめていた。気持ちの持って行き場がない。やっとセックスできる――そんな期待が無残に砕けた。
「まだ早いよ、するのは」
亘が宥めるように、優しく話しかけてくる。シーツを握る手を、慰めるように撫でてきた。
余計、有は苛ついた。
だったら煽るようなキスはやめてほしい。亘の行動は矛盾だらけだ。
「触るぐらいならしてもいいだろ」
徐々に段階を踏んでいくのでもよかった。
「触ったら我慢できなくなる。最後までしたくなるだろ」
亘が呆れたようにため息をついた。
「だったら、すればいいじゃん。俺は――受け入れる側だっていい」
有は思い切って言った。なぜそんなにも、セックスを拒むのかわからなかった。お互いいい大人なのだ。七カ月付き合って今日やっとディープキスをした。あり得ないほどテンポが遅い。
「心の準備ができてない」
「付き合ってもう七カ月たってる」
「まだ七カ月だ」
亘が強い口調で言った。真剣な目で有の顔を見つめてくる。
「――わかった」
有は諦めた。これ以上自分の気持ちを伝えても、亘には届かない。彼の意思は固い。
「俺、待つよ。亘の覚悟ができるまで」
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