remember

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「八月にこの家で伯母さんに会ったんだよな? どんなことを話した?」 「一方的にあっちが話してきた感じだよ。五時ぐらいに目が覚めちゃってさ、有は熟睡してたから、俺はひとりでキッチンに行って水を飲んでた。そしたら、玄関のドアを開けて伯母さんが入って来たんだよ。あなた誰? って聞かれたから、名前を名乗って、同じ大学の友達ですって自己紹介したんだけど、話が通じなかったっていうか。この家は私の持ち家で今は有に住まわせているだけだ、とか」  それを聞いて有は力なく笑った。真紀のときと同じようなことを言っている。 「有が起きるまで待ってようと思ったんだけど、伯母さんに追い出されてさ」 「だからいなかったんだ」  去年の八月二十八日。ふたりは有の部屋でセックスをしたのだが、翌朝、有が目を覚ましたときに亘はいなかった。だが、有はそのことに違和感を覚えなかった。起きた時点で、亘との情事を忘れていたからだ。 「ほんと――よく忘れられたよな。あんなにしまくってたのに」  体には性交の名残があった。それでも頑なに忘れきっていた。 「有、本当に思い出したんだな」  亘が嬉しそうに笑う。抱擁が一層、強くなった。     
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