693人が本棚に入れています
本棚に追加
the New Year's Day【Final episode】
新年を迎えたばかりの神社で、有と亘は甘酒を買い、がらんとした屋台の椅子に腰を下ろした。
有のマンションから歩いてこられる距離の神社は、あまり知名度がなかった。この時間でも参拝するのに時間はかからなかった。
甘酒の飲み口に一度口をつけたが、猫舌の有は湯気の熱さに怖気づいて、飲むのを諦めた。もっと冷めてからでないと無理だ。
隣に座っている亘に顔を向ける。
「石動はなにお願いした?」
有が尋ねると、亘が待ってましたとばかりに口を開いた。
「来年は恋人と初詣に行きたいって願った」
言われたとたん、有の胸は引き絞られるみたいに痛み出す。もうお前とは来たくない、と言われたみたいで悲しくなった。
亘が有の顔を見ずに話し続ける。
「来年もこの神社に、恋人とさ」
「この神社?」
「好きな子がここの近くに住んでるから」
「そうなんだ」
うまくいくといいね、と有は呟いた。でも亘とその好きな子が付き合ったら、もう自分はこの神社に来れないな、と思う。初詣で鉢合わせなんかしたら相当辛い。新年早々、暗いスタートを切ってしまう。
「穂村は?」
亘が自分に聞いてくることを予想していなかった。有は慌てた。
最初のコメントを投稿しよう!